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衛生上とても危険な蚊は吸血による痒みの他、病原菌の媒介が問題になります。2500種以上知られていますが吸血被害をもたらす種はほんの一部です。雌雄が吸血する種、雌のみが吸血する種、雄のみが吸血する種と様々ですが国内における吸血被害をもたらす種は雌のみが吸血します。ここでは一般的に被害に遭う確率の高い種を選定して、その生態や形態を確認して頂ければと思います。
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蚊は一般的な完全変態をする昆虫で卵→幼虫→蛹→成虫と変態します。早くて2週間ほどで卵から成虫になり、成虫の寿命は2~3週間程度です。吸血行動するのは成虫になった雌のみで雄は花の蜜や草の汁を栄養としています。雌は1回の吸血で自身と同じ重さの量を吸血します。幼虫期のボウフラは水中で生活し生き物の死骸や排泄物、プランクトンを食べています。繁殖するには水たまりが必要で種類によって、その繁殖場所は変わります。


【ヒトスジシマカ】
国内で一番吸血被害をもたらす種で体長は4.5mm程度。大きな特徴としては胸部に一筋の白い正中線を有します。脚は黒白の縞模様をしています。国内では東北地方が北限で以南全てに生息します。デング熱やウエストナイル熱の媒介者と知られていますが国内ではウエストナイル熱の媒介は認められていません。越冬は卵の状態で植木鉢の受け皿や墓石のくぼみ、樹洞や古タイヤの中などに多く産卵します。昼間に吸血すると言われていますが夜間室内に侵入し吸血することも多々あります。
ヒトスジシマカの成虫
白い正中線
吸血するヒトスジシマカ

【アカイエカ】
国内で一番夜間に吸血被害をもたらす種はアカイエカで体長は5.5mm程度。体色は地味で黄褐色をして腹部背面に横帯が見られます。日本全土に分布し春から秋に活動し夏は被害が減少します。越冬は成虫で冬眠をするため活動しません。下水溝や雨水枡で繁殖し夜間建物に侵入します。ウエストナイル熱を媒介することで知られていますが国内での発症はありません。
アカイエカの成虫
アカイエカの胸部
満腹で休憩中のアカイエカ

【チカイエカ】
アカイエカと近縁な種で形態的な特徴での差異はほとんどありません。生態的な相違点として無吸血での産卵を1回できます。2回目には吸血が必要です。また冬眠をしないため冬でも気温が高いと吸血被害を受けます。生息場所が特殊でビルの地下水槽や排水槽、地下鉄の雨水枡や排水溝など人工物に生息します。したがって建物内の被害がほとんどで上階より下階での被害が多くなります。フィラリア、ウエストナイル熱の媒介者として知られます。
地下鉄構内のチカイエカ
排水槽で休止するチカイエカとオオチョウバエ
オフィス内に侵入したチカイエカ

【コガタアカイエカ】
イエカの中では小型で体長は4.5mm程度。体色は褐色をして最大の特徴は口器の中央に入る白帯と脚の各節が白いことです。夜間吸血性で日が沈むころ活発に活動を始めます。水田などの用水路や池沼、整備された川付近などに生息します。走光性が知られ室内の明かりに誘引されます。人間からも吸血しますが牛や豚などの家畜類や鳥類から多く吸血することが知られています。越冬は雌成虫です。日本脳炎を媒介することが知られています。
飽血したコガタアカイエカ成虫
白帯が入る口器
コガタアカイエカ♂

【キンイロヤブカ】
国内では水田や用水路などの湿地帯に生息し日中から薄暮れに吸血活動をします。形態的には全体的に光沢のある褐色に見え、胸部紋様は不鮮明で脚は黒褐色、付節は白色で、最大の特徴は腹部背面に逆VないしW字型横白帯があります。馬の感染症ゲタウィルスの媒介者として知られています。
吸血中のキンイロヤブカ
放血したキンイロヤブカ
キンイロヤブカの頭部

【ヤマトヤブカ】
ヤマトヤブカは名の由来の通り在来種でありヒトスジシマカなどより大きく体長は6mm程度。胸部は中央に1本、左右に黄斑を有します。越冬形態は地域性があり北海道は卵、それ以外の地域では幼虫です。市街地にはあまり生息せず自然の残った地域での被害が多く樹洞の水たまりなどで繁殖します。夏季に活発に活動します。
吸血中のヤマトヤブカ
特徴的な胸部紋様
ヤマトヤブカ♂

【オオクロヤブカ】
ヤブカ類では大型でヤマトヤブカより大きく7.5mm程度。大きな特徴は無く胸部は黒一色で外縁が白く縁取られます。日本全土に分布し5月~11月まで活動します。幼虫期のボウフラは少々不潔で糞尿の混ざった水から発生するため公衆便所の周りや公園での被害が多く建設現場の仮設トイレで大発生することもあります。大型で積極的に吸血行動をするため人に対して恐怖感を与えることもあります。
吸血中のオオクロヤブカ
オオクロヤブカの胸部
空腹時のオオクロヤブカ
オオクロヤブカ成虫♂
オオクロヤブカ成虫♂
オオクロヤブカ成虫♂口吻

【シナハマダラカ】
マラリアを媒介するハマダラカ類の中では最も一般的で水田や比較的綺麗な湖沼に生息します。他の吸血蚊と比べ形態的に特徴があり羽には褐色のまだら模様を有します。雌の口器は太く容易に区別できます。夜間活動し人よりは家畜を好む傾向が強くヒトスジシマカやアカイエカと比べると一回り大きく5.5mm程度になります。
シナハマダラカ成虫♀
成虫♀の口器
羽の斑模様
シナハマダラカ成虫♂
成虫♂の口器
♂の生殖器
【ヤマダシマカ】
国内で最も吸血被害の多いヒトスジシマカと非常に形態は酷似し専門家による同定が必要です。北方系のヒトスジシマカはこのヤマダシマカと誤認されることが多くありましたが近年では全国に分布していることがわかっています。ヒトスジシマカが媒介したデング熱の感染能を持つようで注意が必要です。
ヤマダシマカ成虫♀
ヤマダシマカの吸血
飽血したヤマダシマカ

蚊に吸血されると激しい痒みを感じます。これは蚊が吸血する際、血が固まらないようにするため抗凝血作用物質を注入され、この物質に対して体がアレルギー反応を起こすため痒みとなり腫れます。この痒みは個人差はあるものの短時間で改善されます。蚊による被害で最も怖いのは感染症を媒介されることです。国内で蚊に媒介される感染症として有名な日本脳炎やペットに媒介するフィラリア、海外ではマラリア、デング熱、黄熱、ウエストナイル熱などがあります。媒介される感染症は蚊の種類によって異なります。感染する疾病と媒介する蚊を下記表にまとめました。
感染する疾病名 媒介する蚊の種類
日本脳炎 コガタアカイエカ
デング熱 ヒトスジシマカ ・ ネッタイシマカ
黄熱 ネッタイシマカ
ウエストナイル熱 アカイエカ ・ ヒトスジシマカ ・ チカイエカ他
マラリア ハマダラカ
フィラリア ネッタイシマカ ・ トウゴウヤブカ
チクングニヤ熱 ネッタイシマカ ・ ヒトスジシマカ

【日本脳炎】
頭痛、発熱、悪心、嘔吐、めまいが見られ重症例では意識障害や痙攣、昏睡になります。死亡率は高く20~40%、回復しても後遺症が残ることがあります。西日本での感染が多くあります。
【デング熱】
一過性の熱性疾患で発熱、頭痛、筋肉痛、関節炎、麻疹の症状に似た特徴的な皮膚発疹があります。重症の場合は出血、血小板の減少血漿漏出を引き起こしたりデングショック症候群に発展して出血性ショックを引き起こすことがあります。死亡率は未処置で15%程度になります。
【黄熱】
突然の発熱、頭痛、背部痛、虚脱、悪心、嘔吐で発症します。発症後3~4日で症状が回復することもあります。重症になると数時間から二日後に再燃し発熱、腎障害、鼻血、歯根出血、黒色嘔吐、下血、黄疸などが見られます。死亡率は30~50%とされています。
【ウエストナイル熱】
潜伏期間は2~6日で発熱、頭痛、咽頭痛、背部痛、筋肉痛、関節痛が主な症状で発疹、リンパ節の腫れ、腹痛、嘔吐、結膜炎などの症状が出ることもあります。発症者の3~3.5%がウエストナイル脳炎を起こし高熱、精神錯乱、呼吸不全、弛緩性麻痺により死に至ることもあります。死亡率は重症患者の3~15%とされています。
【マラリア】
40℃近くの高熱に襲われ比較的短時間で下がります。マラリアは原虫による感染症で原虫が赤血球内で発育する時間で一定の周期で高熱に襲われます。合併症により脳マラリア、黒水熱、脾臓肥大と低血糖、肺水腫などがあります。国内で発症した熱帯性マラリアの死亡率は3.3%程度とされています。
【フィラリア】
国内では犬の心臓の右心房と肺動脈に寄生する犬糸状虫がよく知られ、海外では人体寄生性で感染後遺症として象皮症を引き起こすバンクロフト糸状虫などが知られています。
【チグングニヤ熱】
二日から長くても二週間程度の潜伏期間の後に40℃に達する高熱と斑状丘疹が出て関節が激しく痛みます。発熱は二日程度で治まりますが関節痛は年齢にもよりますが二年ほど続く場合があります。死亡率は0.1%と極めて低いとされています。


水田
池沼
ドブ
汚水槽
用水路
排水枡
古タイヤ
竹の切り株
お墓のくぼみ
植木鉢の受け皿
水瓶
仮設トイレ

【蚊はどうして人に寄って来る?】
蚊は人の位置を確認するのに吐く息、つまり炭酸ガスや皮膚から出る汗の臭い、体温などを感じ取り寄って来ます。また暗い場所に居る人や色黒の人が刺される傾向にあります。
【蚊の飛行能力】
蚊は時速2.4kmとかなり飛行能力が低いため扇風機を回すだけで刺されるのを軽減できます。
【蚊の羽音】
蚊の羽音は人にプ~ンと聴こえます。ハチやハエの羽音とは聴こえ方が違いますがこれは羽ばたく速さによって聴こえ方が変わってきます。蚊は1秒間に600回も羽ばたいていてハチやハエはそれより羽ばたく回数が少ないのです。
【蚊の食性】
蚊は一般的に血液が餌と思われていますが主食は樹液や果汁、花蜜です。雌が産卵する際、血液を必要として吸血します。4~5回吸血すると産卵します。
【蚊刺過敏症】
人は一般的に蚊に刺されても痒みが発症し短時間で治るのが普通です。稀に蚊刺過敏症と呼び刺されると酷く腫れ重症化するケースがあります。これは単なるアレルギー症状とは違い慢性活動性EBウィルス感染症と言う疾病に掛かっている時に現れます。完治は難しく致死率も高いですが年間約30人前後と発症率は低いようです。

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