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ハチはアリから分化した昆虫で一つのコロニー(集団)で階級があり協力して社会生活を送る数少ない昆虫です。女王蜂を中心に働き蜂(生殖能力のない雌)が育児、餌の収集、営巣を行い繁栄します。年を越すことができるのは、その年に生まれた新女王蜂のみで、女王蜂・働き蜂は年を越すことなく寿命で尽きます。女王蜂や働き蜂は腹部に毒針を持ち危険を感じると攻撃してくるため人にとって害虫として位置付けられています。 |
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スズメバチ亜科
【オオスズメバチ】
本土最大のスズメバチで女王蜂が40~55mm、働き蜂が27~40mm、雄蜂が27~45mmです。気性の荒さも毒の強さも本土一の要注意種です。オオスズメバチの営巣場所は木の根元や樹洞などの閉鎖的な空間を好み土中営巣性ですが稀に住宅の床下などでも確認されています。
オオスズメバチの女王
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オオスズメバチの女王顔面
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刺傷被害に遭った右手
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オオスズメバチの雄
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オオスズメバチの雄顔面
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【樹洞に営巣するオオスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【綺麗好きなオオスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【土中営巣性のオオスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【育房のオオスズメバチ幼虫】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【ヒメスズメバチ】
本土でオオスズメバチに次いで大きく女王蜂、働き蜂、雄蜂ともに24~37mmと階級や雌雄での差はありません。本種最大の特徴は腹部先端が黒色なので他の種とは容易に区別できます。性格は非常に大人しく滅多に攻撃して来ません。食性もアシナガバチの幼虫と蛹のみを捕食するためアシナガバチの発生時期に依存します。巣は狭所に作られ天井裏や土中に多く巣の下部は開放的になります。
ヒメスズメバチの女王
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ヒメスズメバチの顔面
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ヒメスズメバチの胸部
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ヒメスズメバチの腹部先端
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アシナガバチを捕食するヒメスズメバチ
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【侵入口を塞がれたヒメスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【チャイロスズメバチ】
幻のスズメバチと称される超貴重種のチャイロスズメバチ。体長は女王蜂が30mm、働き蜂は17~24mmと差異があります。大きな形態的特徴としては腹部に縞模様が無く黒一色です。頭部胸部は名の通り茶褐色をしています。
そしてチャイロスズメバチ最大の生態的特徴はキイロスズメバチやモンスズメバチの巣に侵入し女王蜂を殺して巣を乗っ取ります。社会寄生をするとても珍しいスズメバチです。
チャイロスズメバチの女王
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チャイロスズメバチの顔面
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茶褐色の胸部
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黒一色の腹部
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モンスズメバチから乗っ取った巣
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大きさに差異のある働き蜂
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【モンスズメバチ】
本種は女王蜂が28~30mm、働き蜂、雄蜂ともに21~28mmです。特徴として頭部単眼周辺が黒く腹部の横縞が波型になることで容易に区別できます。営巣場所は壁内や樹洞、戸袋などの狭所を好みます。巣の下部はヒメスズメバチ同様、開放的ですが出入り口付近に目張りをする習性があります。また営巣空間が狭くなると引っ越すことが知られています。他種と違い、日没後も活動し、昆虫を好みますがセミを主に捕食します。
モンスズメバチの女王
瓦下に営巣するモンスズメバチ
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モンスズメバチの顔面
【通気口を出入りするモンスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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| 閉鎖空間を好む樹洞営巣
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【コガタスズメバチ】
本土で一番多く見る種で女王蜂は25~30mm、働き蜂は22~28mmでオオスズメバチと非常に良く似ていますが、大きさで容易に区別できます。頭楯でも区別が付きます。本種は営巣初期はトックリを逆さにしたような形状を作り、その後球状に変わります。軒下や樹間に営巣することが多く攻撃性はそこまで強くありません。
コガタスズメバチの女王
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コガタスズメバチの顔面
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コガタスズメバチの育房
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コガタスズメバチの幼虫
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コガタスズメバチの蛹
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【巣を壊されたコガタスズメバチ】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【キイロスズメバチ】
本種は大きな特徴として体色が他種と違い黄褐色をしています。女王蜂は25~28mm、働き蜂は17~24mmで他種と比べて小型です。オオスズメバチに次いで攻撃性が強く、例年刺症被害が多くあります。営巣場所は開放的で軒下や天井裏が多く11月にも活動するため巣が直径50cmを超えることもあります。本種もモンスズメバチ同様、営巣空間が狭くなると引っ越すことが知られています。
キイロスズメバチの女王
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キイロスズメバチの顔面
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【キイロスズメバチの営巣活動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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軒下に営巣
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小屋裏に営巣
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古巣の側に営巣
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【ツマアカスズメバチ】
中国をはじめ東南アジアを原産国としヨーロッパでは外来種として移入分布しています。国内では2012年から定着していると考えられ特定外来生物に指定されています。女王蜂は30mm、働き蜂は20mmと小型ながら在来種のキイロスズメバチやモンスズメバチを駆逐するなど攻撃性が高く巣は樹上で1メートルを超えることもあります。現在は長崎県対馬で帰化していますが今後の分布拡大が懸念されています。
ツマアカスズメバチの成虫
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ツマアカスズメバチの側面
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ツマアカスズメバチの背面
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ツマアカスズメバチの顔面
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ツマアカスズメバチの単眼
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ツマアカスズメバチの腹部紋様
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【ツマグロスズメバチ】
南西諸島に生息する小型のスズメバチで大きな特徴は腹部の後端が鮮明な黒色をしています。女王は25~28mm、働きバチは20~22mmに成長します。攻撃性は強くありませんが巣に近づくと攻撃されます。巣の形はコガタスズメバチに類似した変化をします。
ツマグロスズメバチの成虫
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ツマグロスズメバチの顔面
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ツマグロスズメバチの腹部紋様
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【クロスズメバチ】
スズメバチとしては最小で女王蜂は15mm、働き蜂は10~12mm、雄蜂は12~14mmです。体色も他種とは大きく異なり黒色に細い黄線が入ります。土中に営巣するため駆除依頼はあまりありませんが稀に天井裏や樹洞にも営巣します。食用とされることが多く攻撃性も強くありません。
クロスズメバチの女王
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クロスズメバチの顔面
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換気フード内に営巣したクロスズメ
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クロスズメバチの胸部背面
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クロスズメバチの腹部
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クロスズメバチの側面
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【シダクロスズメバチ】
クロスズメバチと非常に似ていて女王蜂は体長15~19mm、働き蜂は10~11mmと小型の部類です。体色も他種とは違い黒色をベースに薄い黄線が入ります。土中営巣性で攻撃性はさほど強くありません。クロスズメバチとの相違点は頭楯にある矢印のような紋様が顎まで到達することで判別できます。
シダクロスズメバチの女王
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シダクロスズメバチの顔面
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シダクロスズメバチの働き蜂
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働き蜂の顔面
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巣盤の蛹室
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土中から取り出された巣盤
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アシナガバチ亜科
【セグロアシナガバチ】
例年、駆除依頼で一番多いのが本種です。体長は21~26mmで本土のアシナガバチでは最大種です。営巣場所は様々で軒下や戸袋、樹の枝や壁面、外構の柵などに作ります。傘状をしていて下部から直接幼虫、蛹なども確認できます。集団で静止する習性があり駆除依頼も多いですが脅かしたり触らない限り攻撃はして来ません。
セグロアシナガバチの女王
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セグロアシナガバチの顔面
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セグロアシナガバチの育房
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セグロアシナガバチの幼虫
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セグロアシナガバチの蛹
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【セグロアシナガバチの営巣活動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【キアシナガバチ】
体長はセグロアシナガバチと同様で本種は体色が強い黄色をしています。市街地で見ることは少なく森林などが近い自然環境を好みます。営巣場所や体型、模様、生態は、ほぼセグロアシナガバチと同様です。
キアシナガバチの女王
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キアシナガバチの顔面
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キアシナガバチ雄の顔面
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換気ダクト内に営巣
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破風板下に営巣
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軒下に営巣
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【ヤマトアシナガバチ】
かつては普通に見受けられましたが現在は減少傾向にあるヤマトアシナガバチ。紋様はセグロアシナガバチやキアシナガバチに酷似し混同される場合があります。
本種最大の特徴は営巣する繭の色が薄い黄色をしていることです。地域的には絶滅危惧種に指定されています。
ヤマトアシナガバチの女王
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ヤマトアシナガバチの顔面
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黄色い繭
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前胸背板の明瞭な紋様
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ヤマトアシナガバチの雄
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ビールケースに営巣
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【フタモンアシナガバチ】
セグロアシナガバチに次いで駆除依頼の多い種で体長が14~18mmとやや小型で腹部に2つの紋様があることで容易に区別できます。営巣場所はセグロアシナガバチに準じますが形状は平面から見て円ではなく細長くなる傾向があります。
フタモンアシナガバチの女王
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フタモンアシナガバチの顔面
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【フタモンアシナガバチの営巣活動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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フタモンアシナガバチの雄
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スチール枠のパネルに営巣
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柵に絡まるツタに営巣
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【コアシナガバチ】
本種は特徴的な体色で黒と黄色、茶褐色の紋様があり体長は11~17mmと小型です。攻撃性がやや強いですが生息数は多くありません。巣の形状は大型になると上向きに反り返るので容易に判別できます。営巣場所は日当たりの良い垂直面に作ることが多いです。
コアシナガバチの女王
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コアシナガバチの顔面
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繭を破り孵化する雄
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コアシナガバチの群れ
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コアシナガバチの営巣
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【コアシナガバチの営巣活動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【キボシアシナガバチ】
平野部など低地に掛けて生息し木の枝や葉裏に営巣します。他種に比べて攻撃性が強く注意が必要です。体色は他種に比べ地味な暗褐色をしています。本種の最大の特徴はヤマトアシナガバチ同様に営巣される繭が黄色をしています。
キボシアシナガバチの女王
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キボシアシナガバチの顔面
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黄色い繭
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キボシアシナガバチの雄
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ビールケースに営巣
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葉裏に営巣
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【ムモンホソアシナガバチ】
体長は15~20mm程度で他のアシナガバチに比べ体幅が細く淡い色彩をしています。攻撃性がやや強いですが住宅地に営巣例はほとんどなく丘陵や林内に営巣します。草刈り等で注意が必要です。
ムモンホソアシナガバチの女王
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ムモンホソアシナガバチの顔面
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細身な体型
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【ヒメホソアシナガバチ】
体長は11~16mmと非常に小型で全身明るい黄褐色に覆われています。住宅地への営巣例はほとんどなく丘陵や林内に営巣し非常に縦長の特異的な巣を作ります。近縁なムモンホソアシナガバチとは顔面の頭楯の紋様で判別できます。
ヒメホソアシナガバチの女王
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ヒメホソアシナガバチの顔面
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胸部紋様
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ミツバチ亜科
【ニホンミツバチ】
ニホンミツバチは在来種で樹洞のような閉鎖空間に営巣し複数の巣板を作ります。餌は花蜜や花粉を集めます。新たな女王蜂が誕生すると分封が起こり女王蜂は働き蜂を連れて新しい営巣場所を求めて飛び立ちます。この際、女王蜂を守って働き蜂が塊のようになるのを分封蜂球と呼びます。
ニホンミツバチの個体
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床下の営巣巣板
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ニホンミツバチの群れ
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【ニホンミツバチの吸蜜】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【ニホンミツバチの分封蜂球】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【ニホンミツバチ走光性】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【小屋裏の営巣巣板】
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【営巣崩壊による巣板の脱落】
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【巣板脱落による蜜の漏洩被害】
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【セイヨウミツバチ】
本土では外来種のセイヨウミツバチの方が多く生息しています。セイヨウミツバチは養蜂において規格化された巣箱を用いて大規模な採蜜が行われています。巣板は六角柱のハニカム構造をしていて営巣は天井裏や床下、壁中などの閉鎖空間で巣板が剥き出しで外皮は作りません。
セイヨウミツバチの個体
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セイヨウミツバチの営巣
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ハニカム構造
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刺痕に残された毒嚢
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刺痕
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【セイヨウミツバチの営巣活動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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クマバチ亜科
【クマバチ】
街中でフジやニセアカシカの花に訪花し花粉を集めます。体長、羽音共に大きく人に恐怖感を与えますが攻撃性は強くありません。穿孔営巣性のため木造家屋の垂木や枯枝に巣穴を掘り蜜と花粉を集め子育てをします。
クマバチの親蜂
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クマバチに営巣された枝
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【クマバチ訪花行動】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【クロマルハナバチ】
ミツバチほど大規模にはなりませんが集団生活をして花蜜や花粉を集めます。ミツバチより体も大きく羽音も有り怖がられますがクマバチ同様に攻撃性は強くありません。木の根元の隙間や樹洞、鳥の巣箱、木造家屋の壁中などに営巣します。
クロマルハナバチの女王
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土中に営巣するクロマルハナバチ
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【クロマルハナバチの室内侵入】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【セイヨウオオマルハナバチ】
ヨーロッパ原産の本種は1990年代に農作物の授粉用にオランダやベルギーから輸入され帰化しています。帰化により在来種との混雑種の発生、在来植物の成長阻害から日本の侵略的外来種ワースト100選定種、特定外来生物に指定されています。在来のマルハナバチと形態は変わらず腹部先端は白、頭部は黒、胸腹部は黒黄の縞で構成されています。
セイヨウオオマルハナバチ成虫
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盗蜜するセイヨウオオマルハナバチ
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訪花するセイヨウオオマルハナバチ
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ハキリバチ亜科
【オオハキリバチ】
ハキリバチの仲間の中では大型ですが人を襲うことはありませんが、掴んだり触れたりすれば刺されます。ハキリバチなのに葉を切ることはほとんどなく営巣は竹筒や建物の隙間などに樹脂(松ヤニ)で蓋をして営巣します。
オオハキリバチの親蜂
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オオハキリバチの顔面
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オオハキリバチの営巣行動
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オオハキリバチに営巣された梁
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営巣の際に落ちた木屑
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【オオハキリバチの捕獲個体】 ※下記画像はクリックすると動画が始まります。
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【アナフィラキシーショック】
アナフィラキシーショックによる重症度
Ⅰ度 |
蕁麻疹 全身の発赤 かゆみ |
Ⅱ度 |
腹痛 悪心 嘔吐 |
Ⅲ度 |
呼吸困難 喘鳴 |
Ⅳ度 |
チアノーゼ 不整脈 血圧低下 |
ハチ、アリ、ムカデ等による刺咬でアナフィラキシーショックを起こす場合があります。一般的には軽度な蕁麻疹や痒み、腹痛等を起こすケースが多いです。もっとも重症(Ⅳ度)の場合は死に至ることもあります。
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【ハチの威嚇行動】
ハチは危険を感じると対象者の目の前でホバリング(旋回)したり大顎をカチカチと鳴らしたりして威嚇します。このような行動をとった場合ハチは攻撃態勢に入っているので大きな音を立てたり決して近付かないようにします。
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【蜂刺症】
蕁麻疹
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蕁麻疹
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スズメバチをはじめアシナガバチ、ミツバチ、ムカデやヒアリ等の毒を持つ昆虫や節足動物に刺されたり咬まれると、その患部が著しく腫れあがります。毒針や毒牙によって毒を注入されることにより炎症を起こし激痛を伴います。毒の成分はアミノ酸を基本とした化合物で構成され強い生理活性があります。毒には多種の有毒成分が含まれ、その中のひとつのヒスタミンの作用によりアナフィラキシーショックを引き起こします。軽度では頭部や股間の激しい掻痒感や全身の発赤、蕁麻疹をきたし症状が重くなるにつれて腹痛、嘔吐、呼吸困難、チアノーゼ、不整脈、血圧の低下、酷い場合は死に至ります。
【アナフィラキシーショックへの自己治療】
虫刺症を繰り返したり体質的に重篤なアナフィラキシーの症状が出る方は予め処方によりエピペン(エピネフリンオートインジェクター)を携帯することをお勧めします。エピネフリンとはアドレナリンのことでアナフィラキシーショックにより著しい血圧の低下をアドレナリンを自己注射することにより緩和する補助治療薬です。重度のアナフィラキシーによる心停止は15分程度と短く刺されたときに迅速に処置することによりショック症状を和らげます。但し、その後必ず医療機関を受診し治療を受けなくてはなりません。一度、症状が改善しても再びアナフィラキシー症状に陥ることがあるので注意が必要です。
【ハチの縞模様】
多くのハチは腹部に縞模様を要しているのは周囲の風景に溶け込んで、鳥などの外敵から身を守る事と黄と黒の警告色として捕食者を欺くためであると言われています。
【色彩への反応】
ハチはいずれの種も黒色に対して激しく攻撃をするため日中は頭髪・眉・目を狙います。だからと言って赤や青・黄・白と言った色に全く反応しないわけでありませんが、黒色よりは攻撃頻度は下がります。
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